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弁護士ブログ

裁判所の違憲立法審査権について


先日ちょっと見ていて残念な記事がありましたので,この機会にブログで投稿させていただきます。

「一票の格差けしからん」聞いたことない!自民から異論続々(東京新聞 4月12日付)。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013041202000132.html

正直弁護士のような法律実務家は,憲法とは意外と縁が少なく,実務上使うことはほとんどありません。何故かというと,大半の事件はその下にある法律,例えば民法や商法や刑法,その他諸々の個別の法律で処理できるためです。
また正直自分も日々離婚事件や多重債務問題などを扱っている実務か弁護士ですので,政治や憲法に関心は正直薄いです。
ただ上記の記事を見て,「国会って本当に大丈夫?」と思ったので,投稿することにしました。

この見解には憲法の初歩中の初歩といえるほど,馬鹿馬鹿しい見当違いがあります。
まず第1の見当違いは憲法47条の法律委任事項,と言う点です。確かに47条は,「選挙区・・・選挙に関する事項は法律でこれを定める」と規定しています。
ただこの規定で委任したのは憲法ですので,当然憲法に違反することは出来ません。投票の平等は,憲法14条に定める法の下の平等の一環として保障されるものですので(最高裁昭和51年4月14日判決),これに反する法律を決めることは出来ません。
従って法律委任事項であることを理由に,裁判所がこれを正すのはおかしい,というのは明確な誤りです。

第2の見当違いは,「憲法裁判所」なるものです。
おそらくここで出てくる「憲法裁判所」とは最高裁判所の系列に属さない憲法専門の裁判所,のことを言うのでしょうが,これは特別裁判所の設置を禁止した憲法76条2項に違反する疑いが強いとされています。
なお講学上「憲法裁判所」とは事件の有無にかかわらず,憲法についての判断を行う裁判所といわれています。

そして最大の見当違いは,「投票価値の平等など聞いたことがない」という見解です。
これを推し進めるなら,「国民の多数意思があれば憲法に反することも出来る」ということになります。
例えばナチスドイツがユダヤ人を迫害したことはよく知られていますが,ナチスドイツはその選挙において圧倒的支持を得て国民の信任を受けたと称し,これらの活動を実行しております。このように多数派の名の下少数派の人権が侵害されたという過去の歴史があるため,少数派の人権を守るべく憲法が定められ,その憲法の番人として裁判所が違憲審査権(81条)を有するとされたのです。
(なお裁判所の違憲審査権の行使に当たっては可能な限り憲法判断を回避するという原則があり,その意味で十分に遠慮深いのです)。

この点この議員さんは,「投票価値の平等など聞いたことがない」と言っておりますが,おそらく自分の選挙区以外聞いて回ることはないでしょうし,全ての人から聞くわけでもありません。例え内閣総理大臣であっても,全国民から事情を聞くなどと言うことは出来るはずがありません。
だとしたらたった一人であっても,平等原則に違反し,それを裁判所に訴え出て違憲判決が出たら,それを謙虚に聞くのが国会の役目であり,議員の役目ではないかと思います。
それを単に自分の選挙区の人から聞いていない,と言うだけで,「裁判所けしからん」という言い方は常識的にいかがかと思いますし,危険な臭いを感じざるをえません。

なお一般に選挙区の平等については様々な議論がありますし,また私も一地方人として地方の意見をもう少し中央で聞いて欲しいという気持ちが強いので,地方優先に選挙区を配分して欲しいという気持ちもないではありません。少数者の人権保障,という見地からすれば,過疎化が進む北海道などは十分に少数者としての立場を持つからです。
ただこれは選挙区の配分という形で地方の人を代表する人を多く選任して貰う,と言う形で行うのではなく,中央が地方の声にもう少し耳を傾けられるような方法を別の方法で考えて貰うべきではないかと思います。

弁護士:笠原 裕治
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