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弁護士ブログ

憲法記念日③~96条の改正について~


 憲法記念日ブログ,最後は現在話題となっている96条の改正についてです。

 自民党は,改正憲法草案を発表しつつ,取りあえず改正のためのハードルが高すぎるとして,96条を改正しようとしておりますが,これは憲法の本質を無視した極めて危険な改正だと思います。

 これを考えるに当たっては,まず憲法の本質,というものを考えないといけません。

 過去の歴史を遡ってみると,市民の人権侵害は,市民が市民に対して侵害を行うのではなく,国家が市民に対して行うものが大半を占めておりました。思いつく限りで挙げてみると,古くは秦の始皇帝による焚書坑儒(思想・信条の自由)から,比較的近代のものとして,ナチスドイツによるユダヤ人虐待(人種差別),日本での治安維持法による弾圧(思想信条の自由),検閲(表現の自由)などなど,挙げればきりがありません。更に近いところを言えば,原発問題での情報操作(知る権利)なども含まれます。
 国家権力は巨大であるが故に,これを悪用して人権侵害をした場合,一般人同士の人権侵害に比べ,はるかに害が大きいのです。

 憲法はこれら国家による人権侵害から国民を守るためにできたものなのです。
 そのため憲法は基本的人権が永久不可侵の権利であると明記し,かつこれを最高法規としています。
 いわば国家の権利を制限するためのもの,と言ってよろしいと思います。

 そのため憲法は様々な条文を設けております。 
 例えば憲法99条は憲法尊重養護義務を定めておりますが,その対象となるのは「天皇又は折衝及び国務大臣,国会議員,裁判官その他公務員」であり,国民全般を対象としておりません。このことからも憲法で規制されるのが国民ではなく国家である,と言うことが分かると思います。
 逆に言えば,国家権力を運用しようとする立場の人から見れば,憲法は自分らの行動にたがをはめようというものですので,非常にうっとうしいものと言うことになります。

 ただそのうっとうしい憲法を権力を運用する立場の人たちが安易に改正できる,というのでは,せっかくの憲法の意味がありません。

 例えば会社には就業規則というものがあります。これは給料や解雇その他についての手続を定めたものですが,これを改正するには労働法により従業員の明確な同意が必要と言われています。これを会社側が勝手に改定できるとしたら,従業員が急に解雇されたり,給料を減額されるなどして,著しい害が生じるからです。

 憲法も基本的にはこれと同じ事です。憲法を安直に改正できるとすると,国民全般に著しい害が生じます(どのような危険があるかは前回のブログをご参照下さい)。
 そのため憲法98条は憲法を国の最高法規と位置づけ,その上で改正手続については96条で通常の法律より厳格な手続を要するとしているのです。

 以上のことからおわかりかと思いますが,憲法96条は国家権力から国民の人権を守る上で重要な手続上の意義を有し,安易な改正は許されるべきではありません。

 今回自民党は,96条の発議要件が厳格に過ぎるので,これを先に改正し,その後憲法全般の改正について議論するべき,としております。 しかし前回のブログで述べたとおり,自民党案は基本的人権の尊重という見地からは極めて危険な内容を含んでおり,到底賛同できません。
 ただどうしてもその内容に改定したいというのであれば,これを正面から国民に問いかけて議論するべきではないでしょうか。
 
 以前のブログに記載しましたが,私は憲法を絶対化する必要はないと思いますし,時代に応じて変化することはやむを得ないと思っております(例えば人権の多様化など)。国民がどうしても自民党案でいい,というのであれば仕方ない・・と言わざるを得ないでしょう(ただ私は自民党が改正した憲法の下で生活する気はありませんから,海外に逃げると思います。笑)。

 ただ先に改正の内容を説明せずに,改正手続だけ俎上に載せるという方法は,卑怯な方法と言わざるを得ません。
 このブログをご覧になった皆様には,是非96条の重要性というものをご理解いただき,その上で判断いただければと思います。

弁護士:笠原 裕治
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