昨年5月に、本弁護士ブログにて生活保護制度についてとりあげておりますが、同制度について政府が本年5月17日に法改正案を閣議決定しており、国会で議決されれば制度が大きく変わる可能性がでてまいりました。 生活保護法の改正について、日本弁護士連合会は「生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急会長声明」をだしており、改正案の廃案を強く求めています。日弁連が廃案を求める理由は、①保護の申請に申請書(必要書面の添付をしたもの)の提出しなければならないことが法律で明文化されたことにより、保護の申請権が侵害されること②保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けることにより、保護申請者を委縮させてしまうことの2点です。 生活保護の申請に関して福祉事務所の対応にある苦情(日弁連生活保護110番から)として多いのが、そもそも福祉事務所が申請させない(申請書を渡さないなど)対応をとられたというものです。現在法律上は生活保護申請に申請書の提出を要するとする根拠はなく、口頭の申請でも認められるというのが裁判例としてもあります。したがって申請書面の提出がなくとも、福祉事務所は申請の意思を示されれば申請を受理する必要はあるのですが、違法な対応がこれまでなされてきたということになります。改正案が法律として成立すれば、これまで違法だった福祉事務所の対応が法律上の根拠を得ますので、申請書や添付書面の不備を理由に申請を認めないというケースが増加することはまず間違いありません。 また、これまでも保護開始の決定の前に、親族に対し電話等で扶養の可否について照会を求めることはありましたが、改正案では福祉事務所の方から書面をもって通知をすることが義務付けられることになっていますので、申請者にとっては心理的ハードルがさらに上がることになります。生活保護が必要な人は必ずしも親族との関係が良くない方もあり、そのような方は親族の資力の有無にかかわらず自分が生活保護を受けることを知られたくない、ということから申請を断念することも増えると思われます。 昨年本弁護士ブログでも指摘した通り、福祉事務所の不適切な対応の背景として、生活保護に十分な予算が与えられておらず、現場の福祉事務所が予算のことを考えなければならない状態におかれていることがあると思います。ところが政府は本年度予算で8月からの生活保護費の抑制を始めており、改正案も生活保護費の抑制を行うことを目的としています。こうした予算の削減に伴い、さらに福祉事務所の現場の対応が歪み、必要である人が生活保護を受けられないことになることを危惧します。 生活保護は特別な人が受けるものではありません。従前は元気に働いていた人でも健康を害したり、事業に失敗したりするなどして収入が閉ざされ、生きるための最後の手段として生活保護を受ける人は沢山います。生活保護を一時的に受けることで苦境を乗り越え、再起した人にも私は沢山会ってきました。そうした生きるため、再起するための最後の手段につきこれ以上ハードルを上げるべきではないと私は思います。
昨年5月に、本弁護士ブログにて生活保護制度についてとりあげておりますが、同制度について政府が本年5月17日に法改正案を閣議決定しており、国会で議決されれば制度が大きく変わる可能性がでてまいりました。
生活保護法の改正について、日本弁護士連合会は「生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急会長声明」をだしており、改正案の廃案を強く求めています。日弁連が廃案を求める理由は、①保護の申請に申請書(必要書面の添付をしたもの)の提出しなければならないことが法律で明文化されたことにより、保護の申請権が侵害されること②保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けることにより、保護申請者を委縮させてしまうことの2点です。
生活保護の申請に関して福祉事務所の対応にある苦情(日弁連生活保護110番から)として多いのが、そもそも福祉事務所が申請させない(申請書を渡さないなど)対応をとられたというものです。現在法律上は生活保護申請に申請書の提出を要するとする根拠はなく、口頭の申請でも認められるというのが裁判例としてもあります。したがって申請書面の提出がなくとも、福祉事務所は申請の意思を示されれば申請を受理する必要はあるのですが、違法な対応がこれまでなされてきたということになります。改正案が法律として成立すれば、これまで違法だった福祉事務所の対応が法律上の根拠を得ますので、申請書や添付書面の不備を理由に申請を認めないというケースが増加することはまず間違いありません。
また、これまでも保護開始の決定の前に、親族に対し電話等で扶養の可否について照会を求めることはありましたが、改正案では福祉事務所の方から書面をもって通知をすることが義務付けられることになっていますので、申請者にとっては心理的ハードルがさらに上がることになります。生活保護が必要な人は必ずしも親族との関係が良くない方もあり、そのような方は親族の資力の有無にかかわらず自分が生活保護を受けることを知られたくない、ということから申請を断念することも増えると思われます。
昨年本弁護士ブログでも指摘した通り、福祉事務所の不適切な対応の背景として、生活保護に十分な予算が与えられておらず、現場の福祉事務所が予算のことを考えなければならない状態におかれていることがあると思います。ところが政府は本年度予算で8月からの生活保護費の抑制を始めており、改正案も生活保護費の抑制を行うことを目的としています。こうした予算の削減に伴い、さらに福祉事務所の現場の対応が歪み、必要である人が生活保護を受けられないことになることを危惧します。
生活保護は特別な人が受けるものではありません。従前は元気に働いていた人でも健康を害したり、事業に失敗したりするなどして収入が閉ざされ、生きるための最後の手段として生活保護を受ける人は沢山います。生活保護を一時的に受けることで苦境を乗り越え、再起した人にも私は沢山会ってきました。そうした生きるため、再起するための最後の手段につきこれ以上ハードルを上げるべきではないと私は思います。