さて前回は地域司法対策を弁護士会として行う必要性について書きましたが,ではどのようにすればいいのでしょうか,ということを書かせていただきます。 前回地方の人たち,特に弁護士の事務所から遠隔地にいる人たちが弁護士を使いにくい理由について説明させていただきましたが,その理由は以下の3つに分けられます。1.地理的要因 弁護士の事務所から遠い。特に北海道では冬期は雪が降ります。先日のような大雪が降ると交通網が途絶します。2.費用的要因 単純に言うと,弁護士費用は高い,若しくは高いというイメージがある。3.心理的要因 弁護士は取っつきにくい,恐い,そもそも知らない,何をやる人なのか分からない等。 自分的にはこの中で最も大きな要因は3の心理的要因だと思います。 例えばある金銭トラブルに巻き込まれた人(弁護士の知り合いがおらず,かつ近くに使ったことのある人がいないような人)がいたとして,その人が弁護士に相談するまでどういう過程をたどるか,ということを考えてみましょう。 まず自分の巻き込まれている事件について弁護士を依頼するのが相当か,ということがまず分からない,と言うハードルがあります。一般の人は「裁判」なら弁護士を使おうと思うでしょう。でも交渉ごとや調停,契約書など書面作成も立派な弁護士の業務です。むしろ裁判にせずに終わらせる,と言う方が弁護士の神髄と言えます(例えばトラブルに対応した契約書を作るなど)。そうすると裁判にならない限り,弁護士に頼もうという気持ちになりません。 次に「弁護士に依頼するなんて恥ずかしいことをしたくない」というハードルがあります。弁護士に頼むと言うことは争いごとに巻き込まれていると言うことですが,地方の人は「争いごとに巻き込まれること自体恥ずかしい」という気持ちを持つ人が多数います。これは数十年前の人と人との結びつきがしっかりしている時代なら通じますが,人心がすさんできて,かつ東京などの業者もインターネットなどを通じて入ってきているこの時代には通じません(ちなみにこういう人の心情につけ込むのがオレオレ詐欺であったりヤミ金融だったりします。)。 さらに「弁護士って取っつきにくいんですけど」という人もいます。まぁ弁護士って「先生」とか言われて偉そうにしているイメージありますからね(汗)。ついでに寿司屋と同じで値段表がないと思われておりますので,更に取っつきにくいんでしょうね。でも現在弁護士事務所には弁護士会の規則で価格表を置かないといけないと定められておりますし,また法律扶助といった便利なシステムもあります(当事務所の料金表はこのホームページに掲載されています。)。 また「弁護士を頼みたいんだけど,誰も知り合いとかいないんです」と言うこともあります。やはりいきなり弁護士の事務所に飛び込みで相談するのは勇気がいるものです。自分のプライベートなことを相談するわけですから信用できる人を頼みたいでしょうし。紹介してくれる人がいればそれに頼りたいと思うのが人情なのですが,それすらもないと頼むのには相当勇気がいることになります。 それに加えて弁護士の事務所までの距離が遠ければ,仕事をしている人であれば仕事を休まないといけませんし,子供を抱えていれば子供をどこかに預けていかないといけません。また動ける人ならいいですが,高齢者のように動けない人もいます。また車の免許を持っていない人もいます。 このように様々な障害があるのですが,その原因を分析すると,どのようにしたらこのような状況に対応できるか,多少見えてきます。 まず心理的な要因,の点ですが,まず第1に弁護士がどのようなことを業務としていて,どういうことが相談に乗れるのか,費用はどの程度かかるのか,本当に取っつきにくいのか(まぁ正直本当に取っつきにくい人もいます。また私も依頼者には優しくしているつもりですが,相手方に対しては取っつきにくいですよ。笑)ということを知ってもらう必要があります。 ただ弁護士が何をするか分からない,と思っている人が,わざわざ時間をかけて研究するわけがありません。 ここはまず弁護士が何をするか,ということを弁護士の側から理解してもらうような活動を起こすべきではないでしょうか。 例えば消費者向けの講演会,高齢者を支援する人に向けての研修などです。 特に後述する「地元で相談を受け付ける可能性が多い人たち(例えば高齢者問題における包括支援センターなど)」に対して高齢者財産管理についての研修を行う,などは特に有効な方策です。 次に単に事務所にいるだけでなく,地元に相談窓口を設置し,またその他様々な箇所と連携するという方法があげられます。 ちなみに先ほどのように弁護士は相談しにくい存在ですが,トラブル自体は日常的に発生しています。そういう人が何処に相談するかというと大抵は身近にいる誰か,です。 誰か,というのは人によりですが,例えば高齢者であれば福祉課・包括支援センター・社会福祉協議会・施設でしょうし,消費者被害なら消費者センターの類いでしょう,商事トラブルなら商工会議所かもしれませんし,不動産だったら地元の不動産屋,類似の有資格者である司法書士・行政書士・社労士,時には民生委員であったりします。 実はこういう人たちも法律の専門家ではないですし,またそもそも紛争に代理人として就任できる立場にありません(ちなみに弁護士法の規定で弁護士以外が報酬をもらって法律業務の代理人をした場合は原則違法とされています)。従って彼らも相談は受けるものの,どうしたらいいかわからず,困っているのです。 それらの人と弁護士とのネットワークを築けば,相談者は地元の相談しやすいところで相談し,それを必要に応じて弁護士を紹介して,対応することができます。 このようにまず心理的な障害を排除し,また近くで法律相談会を開くなどして距離的障害を排除し,かつ金銭的障害についても料金表をしっかり説明し,かつ状況に応じて法律扶助を勧めるなどして排除していくべきだと思います。(弁護士会が具体的に取るべき方策については次回)
さて前回は地域司法対策を弁護士会として行う必要性について書きましたが,ではどのようにすればいいのでしょうか,ということを書かせていただきます。
前回地方の人たち,特に弁護士の事務所から遠隔地にいる人たちが弁護士を使いにくい理由について説明させていただきましたが,その理由は以下の3つに分けられます。
1.地理的要因 弁護士の事務所から遠い。特に北海道では冬期は雪が降ります。先日のような大雪が降ると交通網が途絶します。
2.費用的要因 単純に言うと,弁護士費用は高い,若しくは高いというイメージがある。
3.心理的要因 弁護士は取っつきにくい,恐い,そもそも知らない,何をやる人なのか分からない等。
自分的にはこの中で最も大きな要因は3の心理的要因だと思います。
例えばある金銭トラブルに巻き込まれた人(弁護士の知り合いがおらず,かつ近くに使ったことのある人がいないような人)がいたとして,その人が弁護士に相談するまでどういう過程をたどるか,ということを考えてみましょう。
まず自分の巻き込まれている事件について弁護士を依頼するのが相当か,ということがまず分からない,と言うハードルがあります。一般の人は「裁判」なら弁護士を使おうと思うでしょう。でも交渉ごとや調停,契約書など書面作成も立派な弁護士の業務です。むしろ裁判にせずに終わらせる,と言う方が弁護士の神髄と言えます(例えばトラブルに対応した契約書を作るなど)。そうすると裁判にならない限り,弁護士に頼もうという気持ちになりません。
次に「弁護士に依頼するなんて恥ずかしいことをしたくない」というハードルがあります。弁護士に頼むと言うことは争いごとに巻き込まれていると言うことですが,地方の人は「争いごとに巻き込まれること自体恥ずかしい」という気持ちを持つ人が多数います。これは数十年前の人と人との結びつきがしっかりしている時代なら通じますが,人心がすさんできて,かつ東京などの業者もインターネットなどを通じて入ってきているこの時代には通じません(ちなみにこういう人の心情につけ込むのがオレオレ詐欺であったりヤミ金融だったりします。)。
さらに「弁護士って取っつきにくいんですけど」という人もいます。まぁ弁護士って「先生」とか言われて偉そうにしているイメージありますからね(汗)。ついでに寿司屋と同じで値段表がないと思われておりますので,更に取っつきにくいんでしょうね。でも現在弁護士事務所には弁護士会の規則で価格表を置かないといけないと定められておりますし,また法律扶助といった便利なシステムもあります(当事務所の料金表はこのホームページに掲載されています。)。
また「弁護士を頼みたいんだけど,誰も知り合いとかいないんです」と言うこともあります。やはりいきなり弁護士の事務所に飛び込みで相談するのは勇気がいるものです。自分のプライベートなことを相談するわけですから信用できる人を頼みたいでしょうし。紹介してくれる人がいればそれに頼りたいと思うのが人情なのですが,それすらもないと頼むのには相当勇気がいることになります。
それに加えて弁護士の事務所までの距離が遠ければ,仕事をしている人であれば仕事を休まないといけませんし,子供を抱えていれば子供をどこかに預けていかないといけません。また動ける人ならいいですが,高齢者のように動けない人もいます。また車の免許を持っていない人もいます。
このように様々な障害があるのですが,その原因を分析すると,どのようにしたらこのような状況に対応できるか,多少見えてきます。
まず心理的な要因,の点ですが,まず第1に弁護士がどのようなことを業務としていて,どういうことが相談に乗れるのか,費用はどの程度かかるのか,本当に取っつきにくいのか(まぁ正直本当に取っつきにくい人もいます。また私も依頼者には優しくしているつもりですが,相手方に対しては取っつきにくいですよ。笑)ということを知ってもらう必要があります。
ただ弁護士が何をするか分からない,と思っている人が,わざわざ時間をかけて研究するわけがありません。
ここはまず弁護士が何をするか,ということを弁護士の側から理解してもらうような活動を起こすべきではないでしょうか。
例えば消費者向けの講演会,高齢者を支援する人に向けての研修などです。
特に後述する「地元で相談を受け付ける可能性が多い人たち(例えば高齢者問題における包括支援センターなど)」に対して高齢者財産管理についての研修を行う,などは特に有効な方策です。
次に単に事務所にいるだけでなく,地元に相談窓口を設置し,またその他様々な箇所と連携するという方法があげられます。
ちなみに先ほどのように弁護士は相談しにくい存在ですが,トラブル自体は日常的に発生しています。そういう人が何処に相談するかというと大抵は身近にいる誰か,です。
誰か,というのは人によりですが,例えば高齢者であれば福祉課・包括支援センター・社会福祉協議会・施設でしょうし,消費者被害なら消費者センターの類いでしょう,商事トラブルなら商工会議所かもしれませんし,不動産だったら地元の不動産屋,類似の有資格者である司法書士・行政書士・社労士,時には民生委員であったりします。
実はこういう人たちも法律の専門家ではないですし,またそもそも紛争に代理人として就任できる立場にありません(ちなみに弁護士法の規定で弁護士以外が報酬をもらって法律業務の代理人をした場合は原則違法とされています)。従って彼らも相談は受けるものの,どうしたらいいかわからず,困っているのです。
それらの人と弁護士とのネットワークを築けば,相談者は地元の相談しやすいところで相談し,それを必要に応じて弁護士を紹介して,対応することができます。
このようにまず心理的な障害を排除し,また近くで法律相談会を開くなどして距離的障害を排除し,かつ金銭的障害についても料金表をしっかり説明し,かつ状況に応じて法律扶助を勧めるなどして排除していくべきだと思います。
(弁護士会が具体的に取るべき方策については次回)